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2007年8月24日 (金) UP ! |
映画の創り手たちが出した答え
こんにちは!
8月も終わりに近いというのに、毎日暑いですね。
みなさん、お元気ですか? 夏の間、身体はかなり消耗していますよね。
秋になってから疲れがでないように、今度の休日は、本を読んだり映画を観たり、家でゆったり過ごせるといいですね。
前回は、『手紙』(東野圭吾・著 文春文庫)の小説を中心に、「すべてのものごとが持つ多面性」について書きました。
そして「次回は、映画版『手紙』の魅力を中心にお伝えしたいと思います」と予告していながら、あっという間に1ヵ月以上たってしまいました。更新が遅くなってしまって、本当にすみません。
予告どおり、今回は、映画版『手紙』について書きたいと思います。
小説と映画で大きく異なる設定といえば、小説では「音楽」の道を進もうとする主人公の直貴が、映画では「お笑い」を演じるところでしょう。この設定は、うまい!と唸りました。
悲しい人間が演じる「お笑い」は、その境遇を知る者には余計に悲しい。その宿命の皮肉さが一層強く伝わってきます。
小説では手紙を通してしか伝えられなかった兄・剛志の刑務所での生活も、映画では描写されています。受刑者たちに届いた手紙が配られるシーンで、みな嬉しそうに受け取っている中、剛志にだけは手紙がない。淋しそうに、でも自分を納得させるように頷く剛志の姿が胸を打ちます。
また映画は、桜の花で始まり、桜の花で終わります。
桜の花びらが舞い散る中で兄剛志の手紙を読んでいる直貴の姿から始まり、その手紙にはもう一つの桜が。そう、刑務所で押された桜の花の検閲印です。美しく咲き誇る桜と検閲印の桜。これは映像だからできた表現でしょう。
桜の花ほど、人の気持ちに寄り添って見え方の変わる花はありません。悲しいときに見る桜は悲しげに、幸せな気持ちで見上げる桜は祝福しているかのような華やかなあたたかさを感じさせてくれます。ラストの桜の花の並木道。きっと最初の桜とは違って見えることでしょう。
このように、「小説を映画にする」すなわち「文字を映像にする」変換過程で、映画の創り手たちは、たくさんの選択、決断をしていく必要があるのですね。
まず、演じる人を誰にするか。
例えば、直貴の人生においてキーパーソンになる会社の会長を演じるのは、杉浦直樹さんです。彼はみかんをぶらさげ足をひきずっています。そんな細やかな演技ひとつで会長の人間性に深みが増し、背負ってきた人生に重みが増しました。そして「差別は当然」という彼の言葉に「凄み」すら加わりました。
被害者の家族を演じた吹越満さんもまた圧巻でした。
舞台をどこにするか。
たとえ原作と同じ地域を舞台に選んだとしても、画面ごとに映り込む背景となる場所は選択していかなければなりません。青空なのか曇り空なのか。主人公の住む部屋はどんな部屋なのか。それだけで伝えたいことは変わってくることでしょう。
ストーリーをどうするか。
2時間前後という時間的な制約の中で、原作小説のどこを強調し、どこを捨てていくか。
すべては、創り手たちの「解釈」なのです。
そう、この映画版『手紙』の創り手たちも、一人の「読者」から出発し、
自分たちが感動したものを、映像という手法でどのように伝えていくのか。それぞれの「解釈」が形になったものが映画だと思っています。
小説を映画化する意義はそこにあると思います。
同じものは作れない。同じものなら作る意味はない。
同じ小説から、100人の創り手がいれば、100通りの映画が出来上がることでしょう。
この映画版『手紙』では、小説と異なるラストが用意されています。
小説のラストでは描かれていなかった、その先の、直貴の決断が提示されています。
そのラストがとてもいいんです。
原作者の東野圭吾氏はこう言っています。
「映画のラストには、そこにプラスされた部分があるわけですが、僕は、それがこの映画を作った人の“答え”なのかなと思っています」(キネマ旬報2006年11月上旬号)
最後に、個人的な感想を付け加えさせてください。
映画では、もう一つの収穫がありました。玉山鉄二さんです。
実は私、デビューした頃からの玉山鉄二さんのファンなのですが、彼は今回の剛志の役で、4キロ痩せ、坊主頭にしました。服役中の淋しげな姿、終盤の直貴との再会シーンで見せる表情に、私は涙が止まらなくなりました。
DVD『手紙』のプレミアム版(フェリシモでは残念ながら取り扱っていませんが)に収録されている監督や俳優さんたちのインタビューによると、玉山さんは毎回監督に「ここはこう演じたらどうか」という提案を用意していたといいます。また玉山さん自身も終盤のシーンではリハーサル中から涙が止まらなかったと言っています。
その素晴らしい演技は、ぜひ映画で確認してください。
次回は、『幸福な食卓』(瀬尾まいこ・著 講談社)を取り上げます。
楽しみにしていてくださいね!